GUIDE

マーケティング戦略の立て方
フレームワークを「埋めて終わり」にしないために

フレームワークの名前は知っている。本を読んで、3CもSTPもSWOTも埋めてみた。それなのに、現場が動き出さない。数字も変わらない。このガイドは、そんな「埋めたのに動かない」状態を抜け出すためのものです。フレームワークの使い方だけでなく、それを実行に結びつけるための視点までお伝えします。

読了 約12分 牧野 悠 解説・ガイド
ホワイトボードに描いた戦略フレームワークを前に、次に何をするかを落ち着いて話し合うビジネスパーソンたちのイメージ

「フレームワークは埋めたのに、何も変わらない」

「マーケティング戦略を立てよう」と本やセミナーで学ぶと、たいてい最初に出てくるのがフレームワークです。3C、STP、4P、SWOT。きれいな図を埋めると、なんとなく戦略を作った気持ちになります。

でも、しばらくすると気づきます。

  • フレームワークは埋めたのに、次に何をすればいいかわからない
  • 作った資料は、誰も見返さないまま引き出しに眠っている
  • 現場は相変わらず「とりあえずSNS」「とりあえず広告」で動いている

これは、あなたや担当者の能力の問題ではありません。フレームワークそのものが「戦略」ではないからです。

埋めた書類 3C STP 4P SWOT 繋がっていない 動いている現場 とりあえずSNS とりあえず広告 とりあえず記事

きれいに埋めた書類と、動いている現場が分断されている状態


なぜ起きるのか:「フレームワーク=戦略」という誤解

ここで一度、言葉を整理します。

マーケティング戦略とは、「誰に・何を・どのように届けるか」の方針を定め、限られたリソースを最大の成果に変えるための意思決定です。

一方、フレームワークは、その意思決定を助けるための「考える道具」にすぎません。3C分析は道具です。SWOT分析も道具です。道具を使ったからといって、自動的に意思決定が生まれるわけではありません。

混同しやすいのが「施策」と「戦略」です。

  • SNSを始める、広告を打つ、記事を書く → これは施策
  • なぜその施策を選ぶのか、他ではなくなぜこれか → これが戦略

フレームワークを埋めても動かないのは、多くの場合「埋めること」がゴールになり、「だから何をするか」という意思決定まで進んでいないからです。


戦略立案の5ステップ:道具はこの順番で使う

フレームワークは、バラバラに使うと「分析のための分析」になります。次の5つのステップに沿って、必要な場面で必要な道具を使うのが基本です。

STEP 1 環境分析|今どこにいるか 道具:3C分析 / SWOT / 市場調査 STEP 2 ターゲティング|誰に届けるか 道具:STP分析 / ペルソナ設計 STEP 3 ポジショニング|どこで勝つか 道具:ポジショニングマップ / 競合分析 STEP 4 施策設計|手段を選ぶ 道具:4P/4C / ジャーニー / ファネル STEP 5 実行・検証|動かして数字を見る 道具:KPI設計 / ABテスト / 改善サイクル

道具はこの順番で使う。各ステップに、使う道具を添えている

Step 1|環境分析:今どこにいるかを把握する

自社・競合・市場の現状を整理します。大切なのは、感覚ではなくデータと事実に基づくことです。「なんとなく競合はこうだろう」ではなく、実際の顧客の声・検索データ・競合サイトの調査から始めます。

使う道具:3C分析 / SWOT分析 / 市場調査

Step 2|ターゲティング:誰に届けるかを決める

市場を分割し、自社が戦える領域を選びます。「全員に届けたい」という発想は、リソースを分散させて誰にも刺さらない状態を生みます。自社の強みが最も活きる相手を選びます。

使う道具:STP分析 / ペルソナ設計

Step 3|ポジショニング:どこで勝つかを設計する

競合と比べて「どの軸で勝つか」を決めます。価格・品質・スピード・専門性・デザイン——どれを強みの軸にするかで、その後のすべての施策の方向性が決まります。

使う道具:ポジショニングマップ / 競合分析

Step 4|施策設計:具体的な手段を選ぶ

ターゲットとポジショニングが決まって、はじめて「どの施策を使うか」が決められます。SEO・広告・SNS・コンテンツは手段であり、戦略の後に来るものです。施策を先に決めてしまうと、戦略と施策がずれます。

使う道具:4P/4C分析 / カスタマージャーニー / ファネル設計

Step 5|実行・検証:動かして数字を見る

戦略は、実行してはじめて価値を持ちます。数字で成果を測り、仮説と現実のズレを直し続けます。月次・四半期でのレビューを設けることが、戦略を「生きたもの」にします。

使う道具:KPI設計 / ABテスト / 改善のサイクル


必須フレームワーク7選:使いどころと限界

ここからは、戦略立案でよく使う7つの道具を紹介します。それぞれの「限界」も正直にお伝えします。 フレームワークは万能ではなく、目的に合わせて選ぶものだからです。

1. 3C分析|環境分析の出発点

Customer(顧客)・Company(自社)・Competitor(競合)の3つの視点から現状を整理します。環境分析の最もシンプルな枠組みで、戦略立案の前にまず実施したい道具です。

限界

静的な分析のため、市場の変化が速い場合は定期的な更新が必要です。「分析が目的化」しやすい点にも注意します。

2. STP分析|ターゲットとポジションを決める

Segmentation(市場細分化)・Targeting(標的選定)・Positioning(位置づけ)の3ステップ。「誰に何を届けるか」を定義する、戦略の核心を担う道具です。

限界

ポジショニングの「軸」の選び方が難しく、思い込みで決まりやすい面があります。顧客インタビューなどの定性調査と併用すると精度が上がります。

3. 4P分析|施策の設計とレビュー

Product(製品)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(販促)の4要素を整合させます。古典的な枠組みですが、今でも施策の抜け漏れ確認に有効です。

限界

売り手視点の道具です。顧客視点の4C(Customer・Cost・Convenience・Communication)と合わせると補完できます。

4. SWOT分析|戦略仮説の立案

Strength(強み)・Weakness(弱み)・Opportunity(機会)・Threat(脅威)の4象限で整理します。内部環境と外部環境を組み合わせ、クロスSWOTまで展開すると方向性が見えてきます。

限界

「分析で終わる」ことが最大のリスクです。クロスSWOT(強み×機会などの掛け合わせ)で戦略仮説まで落とし込まないと、施策につながりません。

5. ペルソナ設計|コンテンツ・広告・LPを作る前に

ターゲット顧客を具体的な「一人」として描きます。年齢・職業・行動・悩みを具体化すると、メッセージの精度が高まります。重要なのは、想像ではなく実際の顧客インタビューから作ることです。

限界

想像で作ったペルソナは施策を誤らせます。実在する顧客への聞き取りを経ずに「完成」とせず、既存顧客に「なぜ自社を選んだか」を聞くところから始めます。

6. カスタマージャーニー|接点設計とコンテンツ計画

顧客が自社を知り、検討し、購入し、続けるまでの行動・感情・課題を時系列で整理します。「どこで何を届けるか」の設計図として機能します。

限界

実際の顧客行動は一直線ではありません。きれいなマップを作ることより、実態を捉えることを優先します。

7. マーケティングファネル|KPI設計と優先順位づけ

認知→興味→検討→購入→継続の各フェーズで、顧客数がどう絞り込まれていくかを可視化します。「どのフェーズがボトルネックか」を見つけ、打つべき施策を明確にできます。

限界

今は直線的なファネルではなく、複数の経路で購入が決まります。あくまで思考の補助として使います。

環境を見る 3C分析 SWOT分析 相手を決める STP分析 ペルソナ設計 施策に落とす 4P / 4C分析 ジャーニー 回す ファネル KPI設計 現状を把握する 届ける相手を絞る 手段を組み立てる 数字で改善し続ける

7つの道具は「環境を見る/相手を決める/施策に落とす/回す」の4グループに束ねられる


「戦略が実行につながらない」3つの原因

フレームワークは埋めたのに、動かない。私たちが現場で繰り返し目にしてきた原因は、おもに3つです。

原因1|戦略が「資料」で終わっている

フレームワークを埋めて書類を作ることを、戦略だと思ってしまうケースです。戦略は、誰が読んでも同じ行動が取れる水準まで具体化されないと、実行する人に届きません。

「集客を増やす」ではなく、「この媒体で、月に何件のリードを獲得する」まで落とし込みます。

原因2|戦略と実行の担当者が分断されている

経営側が戦略を立て、現場が施策を回す。けれど両者の対話がない、という状態です。実行する人が「なぜそれをやるか」を理解していないと、施策は形だけのものになります。

月次の戦略レビューに、現場の担当者も参加する形が有効です。

原因3|KPIが「活動量」になっている

「SNS週3投稿」「記事を月10本」のような活動量をKPIにすると、活動そのものが目的化し、成果から遠ざかります。KPIは「売上につながる行動の結果」で置くのが基本です。リード獲得数・CVR・顧客獲得単価(CPA)などを中心に設計します。

戦略 成果 原因1 資料で終わっている 原因2 戦略と実行が分断 原因3 KPIが活動量になっている この3つが、戦略と成果の間を塞ぐ

戦略から成果への道を塞ぐ、3つの落とし穴


私たちの考え:フレームワークより先に、数字を見る

ここまで道具の使い方をお伝えしてきました。そのうえで、私たちが支援の最初に行うことをお話しします。

私たちの考え

私たちは、最初にフレームワークを埋めることはしません。まず「売上がどこで詰まっているか」を数字で把握します。

売上は、次の3つの掛け算に分解できます。

売上 流入数 × CVR(転換率) × 客単価

この式のどこがボトルネックかを先に特定すると、取るべき戦略の方向性が見えてきます。

ボトルネック状態取る方向性
流入数 訪問者が少ない/質が低い 認知・集客を強化する(SEO・広告・SNSなど)
CVR 訪問はあるが申込・購入に至らない 転換率の改善に集中する(LP改善・信頼コンテンツ・CTA最適化)
客単価 成約はするが単価が低い 単価の仕組みを設計する(プランのパッケージ化・追加提案の設計)

フレームワークは、この方向性が決まった後に使うと効果を発揮します。逆に、ボトルネックを見ないまま道具だけ埋めると、「分析のための分析」になりがちです。

データを起点に方向性を決め、そこからフレームワークで具体化する。この順番を、私たちは大切にしています。


なぜ「埋めて終わり」になるのか:本当の原因は"体制"

ここまで読んで、こう感じた方もいるかもしれません。

「原因はわかった。でも、現場が動く状態を自分たちだけで作れる気がしない」

それは自然な感覚です。なぜなら、戦略が動かない本当の原因の多くは、戦略の中身そのものより、戦略を回し続ける"体制"がないことにあるからです。

  • 数字を取れる計測環境(GA4・Search Consoleなど)が整っていない
  • 戦略を立てる人と、施策を動かす人がつながっていない
  • 数字を見て、続ける/やめるを決める場が定例化されていない

これらは、単発で「SEOをやる」「広告を打つ」だけでは埋まりません。流入を集めても、受け皿となる導線や、見込み客を貯めて再アプローチする仕組みがなければ、施策は点で終わってしまいます。

だからこそ私たちは、個別の施策の前に、成果が続く"体制"を一緒に設計することを基本にしています。そして、その体制を御社の中に残し、最終的には自社で回せる状態(内製化)まで支援します。マーケKPIだけでなく、受注やLTVといった事業の数字まで接続して見る——これが、私たちが「事業ROI(費用対効果)」で語る理由です。

つながっている:輪が回る 流入 導線 蓄積 再アプローチ 一周つながり、成果が積み上がる 切れている:途中で止まる 流入 導線 蓄積 仕組みなし 再アプローチ 届かない ここで切れ、集めた人が漏れていく

流入から再アプローチまで一周つながる状態(上)と、途中で切れて成果が漏れる状態(下)


戦略を実行に移す前のチェックリスト

戦略を立てたら、動き出す前にこのリストを確認してください。チェックが付かない項目は、まず埋めてから動き始めることをおすすめします。

戦略の明確さ
  • ターゲット顧客を1〜2つに絞り込んでいる
  • 競合と比べて自社を選ぶ理由が1文で言える
  • 「やらないこと」が明確に決まっている
  • 売上の3要素(流入×CVR×客単価)のどこが課題か特定できている
KPIと測定
  • 最終KPI(売上・リード数)が設定されている
  • 中間KPI(CVR・CPAなど)が設定されている
  • GA4・Search Consoleなどの計測環境が整っている
  • 月次でKPIを見るサイクルが決まっている
実行体制
  • 各施策の担当者と期限が決まっている
  • 実行する人が戦略の意図を理解している
  • 最初の3ヶ月の施策ロードマップがある
改善のサイクル
  • 仮説と実績を比べる習慣がある
  • 四半期ごとに戦略を見直すタイミングがある
  • 成果が出ない施策をやめる基準がある

よくある質問

マーケティング戦略とマーケティング計画の違いは何ですか?

戦略は「どこで・誰に・何を・どのように戦うか」の方針決定です。計画は、その戦略を実行するための具体的な施策・スケジュール・予算配分です。戦略がないまま計画を立てると、個々の施策がバラバラになり、全体の方向性を失います。

フレームワークはいくつ使えばいいですか?

目的に応じて1〜2つで十分です。すべてを使う必要はありません。環境分析には3CまたはSWOT、ターゲティングにはSTP、施策設計には4P、というようにフェーズで使い分けます。フレームワークは思考の補助道具であり、目的ではありません。

マーケティング戦略はどのくらいの頻度で見直すべきですか?

最低でも半年に1回、大きな市場変化があれば都度の見直しをおすすめします。競合環境・顧客行動・自社の強みは変化するため、同じ戦略を長く固定するのはリスクになります。月次の数値確認と、四半期ごとの戦略レビューを組み合わせる運用が現実的です。

ペルソナはどのように作ればいいですか?

実在する顧客へのインタビューと、既存顧客データを組み合わせて作ります。想像で作ったペルソナは実態とずれやすく、施策の方向性を誤らせます。「なぜ自社を選んだか」「何に悩んでいたか」を既存顧客に具体的に聞くことで、実態に即したペルソナになります。

SWOT分析を行っても施策に落とし込めません。どうすればいいですか?

クロスSWOT(強み×機会、強み×脅威などの掛け合わせ)まで展開すると、施策が見えてきます。SWOTは「何が強みか」を言葉にすることが目的ではなく、「強みを使って機会をどう取りにいくか」の戦略仮説を作る道具です。分析で止めず、必ず仮説まで落とし込みます。

中小企業でもマーケティング戦略は必要ですか?

むしろ中小企業こそ必要です。リソースが限られるからこそ、施策の選択と集中が欠かせません。「どこに集中して戦うか」を決めないと、限られた予算が分散し、すべての施策が中途半端になります。

マーケティング戦略の立案を外注することはできますか?

外注はできますが、方向性を決める力は社内に持つことをおすすめします。自社の強み・顧客・競合を最もよく知っているのは、本来は自社です。外部に頼めるのは、その情報をフレームワークで整理し、戦略仮説を磨く作業です。最終判断まで任せきりにすると、自社の意思決定力が育ちません。だからこそ私たちは、戦略を一緒に作り、社内で回せる状態まで支援することを大切にしています。


まとめ

  • フレームワークは「考える道具」であり、それ自体は戦略ではありません。
  • 道具は、環境分析 → ターゲティング → ポジショニング → 施策設計 → 実行・検証の順番で使います。
  • 戦略が動かない原因は、資料で終わる・担当が分断される・KPIが活動量になる、の3つに集約されます。
  • フレームワークより先に「売上=流入×CVR×客単価」のどこが詰まっているかを数字で見ると、方向性が定まります。
  • そして本当のボトルネックは、戦略を回し続ける"体制"がないことにあります。

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出典・前提について:本記事のフレームワーク(3C・STP・4P・SWOT・ペルソナ・カスタマージャーニー・ファネル)は、マーケティングの一般的な理論に基づく解説です。「売上=流入×CVR×客単価」の分解、および各原因・チェックリストは、私たちの実務経験に基づく考え方です。記載の事例・成果には個別の前提があり、同じ成果を保証するものではありません。

執筆: 牧野 悠(株式会社AsetZ 執行役員 / マーケティングDX事業責任者)

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