GUIDE — 事業ROI

「マーケROI」だけでは、
なぜ判断を間違えるのか。

CVもCPAも改善した。なのに、売上や利益が思ったほど伸びていない。その違和感の正体は、マーケの数字と事業の数字がつながっていないことかもしれません。受注・LTVまで接続して投資を判断する「事業ROI」の考え方を、図解でやさしく解説します。

2026-03-18 牧野 悠 ガイド
マーケの数字と受注・利益の数字を一枚の資料で見比べ、本当に儲かっている投資はどれかを落ち着いて検討する経営者とマーケ担当者のイメージ

広告のCPAは下がった。問い合わせの数も増えた。レポートの数字は、どれも良くなっている。

なのに、なぜか売上や利益は思ったほど伸びていない。「数字は良いはずなのに、手応えがない」。そんな違和感を持ったことはないでしょうか。

その違和感には、はっきりした理由があります。見ている数字が、マーケティングの中で完結していて、事業の数字につながっていないのです。

この記事では、マーケの数字(マーケROI)と事業の数字(事業ROI)が何が違うのか、そしてなぜ事業ROIで見ないと投資判断を間違えるのかを、図解でやさしく解説します。専門知識はいりません。読み終えるころには、「うちが追っていた数字は、本当に正しかったのか」を問い直せるようになります。

マーケ指標 CPA改善・CV増加 ? 事業の数字 売上・利益 数字は良いのに、事業は伸びていない

マーケの数字は右肩上がりなのに、事業の数字は横ばい。このギャップが「手応えのなさ」の正体です。


まず、「ROI」という言葉を整理する

ROIという言葉はよく使われますが、何を指しているかは人によってバラバラです。最初にここを揃えておきます。

ROIは「投資した額に対して、どれだけ成果が返ってきたか」を表す考え方です。同じROIでも、「成果」を何で測るかによって、見えるものがまったく変わります。

投資 成果 マーケの成果 CV ・ 問い合わせ数 事業の成果 受注 ・ 利益 ・ LTV 同じ投資でも、何を「成果」と見るかで結論が変わる

同じ「投資 → 成果」でも、成果をマーケで見るか事業で見るかで、たどり着く結論が変わります。

区分何を「成果」と見るか主に使う数字
マーケROIマーケティング活動の成果CV数・問い合わせ数・CPA・流入数
事業ROI事業として得た成果受注額・粗利・LTV(顧客生涯価値)・回収期間

マーケROIは「マーケがうまくいったか」を測る数字です。事業ROIは「事業が儲かったか」を測る数字です。

この2つは、近いようでいて、別のものです。そして多くの場合、私たちが普段レポートで見ているのは、マーケROIのほうだけです。


マーケROIだけを見ると、なぜ判断を間違えるのか

「CVが増えてCPAが下がったなら、いいことじゃないの?」。そう思うのが自然です。

でも、CVや問い合わせは「入口」の数字でしかありません。そこから先に、長い道のりがあります。

マーケROIが見ている範囲 事業ROIが見ている範囲 広告クリック 流入 問い合わせ CV 商談 受注 売上が立つ 継続 LTV マーケROIだけだと、商談以降(右半分)が見えていない

マーケROIが見ているのは「入口」まで。商談・受注・継続という「お金になる先」は、マーケのレポートには出てきません。

お客さんが「知る」から「事業の利益になる」までには、おおよそ次の段階があります。

  1. 広告やSEOで見つけてもらう(流入)
  2. 問い合わせや資料請求をしてもらう(CV)
  3. 商談・検討に進む
  4. 受注する(売上が立つ)
  5. 継続・リピートしてもらう(利益が積み上がる=LTV)

マーケROIが見ているのは、おもに1〜2の範囲です。3以降は、マーケのレポートには出てきません。

ここに、判断を間違える落とし穴があります。具体的に見てみましょう。

落とし穴1:CVは増えたのに、受注につながっていない

問い合わせの数は2倍になった。でも、増えた問い合わせの中身が「とりあえず聞いてみただけ」の人ばかりだった。

CPAを下げようとして、より安く集まる入口を増やすと、こういうことが起きます。数は増えるのに、受注に進む人の割合が下がる。マーケのレポートは「CV2倍・CPA半分」と輝いていても、受注はほとんど変わっていない、という状態です。

ケースA CV 100件 受注 10件 ケースB CV 200件 受注 11件 CVは2倍。 でも受注はほぼ同じ。 「数の罠」に注意

CV数だけ見るとBが優秀に見えます。でも受注はほぼ変わっていません。数の多さが、利益の多さとは限りません。

落とし穴2:受注はしたけど、利益が薄い・続かない

受注も取れた。でも、その顧客が一度きりで離れてしまう。あるいは、値引きで取った受注で、利益がほとんど残らない。

マーケROIでは「受注1件」も「受注1件」です。でも事業から見れば、1回で終わる顧客と、何年も使い続けてくれる顧客では、価値がまったく違います。この「その後どれだけ利益を生むか」を表すのがLTV(顧客生涯価値)です。

LTVを見ずにCPAだけで判断すると、「安く取れるが続かない顧客」ばかりを集めてしまうことがあります。

落とし穴3:チャネルごとの「本当の貢献」が見えない

広告Aは問い合わせが多い。広告Bは問い合わせが少ない。マーケROIだけなら、Aに予算を寄せる判断になります。

でも、受注やLTVまで見たら、Bの顧客のほうが単価が高く、長く続いていた──ということが起こります。入口の数字だけで予算を動かすと、本当は儲かっていたほうを止めてしまう。これは、よくある判断ミスです。

Point

「CPAが安いチャネル」が「事業に貢献しているチャネル」とは限りません。安く集まる入口ほど、受注の質が低いことも珍しくありません。


事業ROIで見ると、何が変わるのか

では、受注・LTVまで接続して見ると、判断はどう変わるのでしょうか。

先ほどの「広告Aと広告B」の例を、事業ROIで見直してみます。

広告A 広告B マーケROIの段(CV数・CPA) Aが優勢に見える Bは控えめ 事業ROIの段(受注率・顧客単価・LTV・粗利)を足すと… Aの利益は小さい 受注率・LTVが低い Bが逆転して勝つ 粗利が大きい

同じデータでも、見る範囲を「受注・LTV・粗利」まで伸ばすと、結論がAからBへ逆転します。

見ている数字広告A広告BマーケROIの判断事業ROIの判断
CV数(問い合わせ)多い少ないAが良い
CPA(1件あたりの獲得コスト)安い高いAが良い
受注率低い高い(見えない)Bが効く
顧客単価・LTV低い高い(見えない)Bが効く
最終的な粗利小さい大きい(見えない)Bに寄せる
※上の数字は、考え方を説明するための例です。実際の数字は事業によって変わります。

マーケROIだけなら「Aに予算を寄せる」が正解に見えます。でも、受注率・顧客単価・LTVまで接続すると、「本当に利益を生んでいたのはB」だと分かります。

事業ROIで見るというのは、こういうことです。入口の数字で止めず、「その先、受注になったか・利益になったか・続いたか」まで一本の線でつなぐ。すると、これまで見えなかった「本当に効いている投資」と「数字は良いけど儲かっていない投資」が、はっきり分かれて見えてきます。

Point

事業ROIは「もっと難しい計算をする」ことではありません。「入口の数字で判断を止めず、お金になるところまで線をつなぐ」という、見る範囲の話です。


なぜ、多くの会社は事業ROIで見られないのか

ここまで読んで、「事業ROIで見たほうがいいのは分かった。でも、うちはやれていない」と感じた方が多いはずです。

それは、能力の問題ではありません。仕組みの問題です。

事業ROIで見るには、マーケの数字(広告やサイトのデータ)と、事業の数字(受注・売上・顧客の継続データ)が、つながっている必要があります。ところが、多くの会社ではこの2つが別々の場所に置かれています。

マーケのデータ 広告管理画面 アクセス解析(GA) サイト 事業のデータ 受注・販売管理 顧客台帳 継続・リピート記録 深い溝 (手作業で苦労) データがつながっていないから、事業ROIが見えない

マーケと事業のデータが別々の島に置かれ、間に溝がある。これが、多くの会社が事業ROIを見られない構造です。

  • 広告の数字は、広告の管理画面の中
  • サイトの数字は、アクセス解析ツールの中
  • 受注や売上の数字は、販売管理や顧客台帳の中
  • 顧客が続いているかは、また別の場所

これらがバラバラだと、「この問い合わせが、いくらの受注になって、その後いくらの利益を生んだか」を追えません。だから、追える範囲(マーケの中)の数字だけで判断するしかなくなります。

つまり、事業ROIで見るためには、まずこれらのデータをつなぐ「土台」が要ります。この土台のことを、私たちはデータ基盤と呼んでいます。


事業ROIで見るための3つのステップ

では、何から手をつければいいのか。いきなり完璧な仕組みを作る必要はありません。順番に整えていけば、少しずつ見えるようになります。

つなぐ データを一か所に 一本の線にする 流入→受注→継続 判断に使う 予算配分・施策 事業ROIで投資判断ができる状態へ

いきなり完璧を目指さず、つなぐ → 線にする → 判断に使う、と一段ずつ上がっていきます。

ステップ1:データをつなぐ

まず、バラバラに置かれているマーケのデータと事業のデータを、一か所に集められる状態にします。完全自動でなくても構いません。「問い合わせの番号」と「受注の番号」がひもづくだけでも、見える景色は変わります。

ステップ2:入口から利益まで、一本の線にする

集めたデータを、「流入 → CV → 商談 → 受注 → 継続」という一本の流れでつなぎます。これで、「どの入口から来た人が、最終的にいくらの利益になったか」を追えるようになります。

ステップ3:判断に使う

つながった数字を、予算配分や施策の判断に使います。「Aを止めてBに寄せる」「この施策は数は出るが受注にならないから見直す」といった判断が、感覚ではなく数字でできるようになります。

この順番が大切です。判断の前に、線をつなぐ。線をつなぐ前に、データをつなぐ。土台から積み上げていくのが、遠回りに見えて一番の近道です。

Point

「うちは事業ROIで見られていない」と感じても、焦る必要はありません。多くの会社が同じ状態から始めています。大事なのは、どこからつなぎ始めるかです。


AsetZの考え方 ── マーケの数字で終わらせない

私たちAsetZが大切にしているのは、「マーケの数字を良くすること」をゴールにしない、という点です。

CPAを下げることも、CVを増やすことも、もちろん大切です。でも、それは通過点です。私たちが最後まで見たいのは、その施策が「事業の利益にどうつながったか」です。

個別の施策 SEO 広告 LINE LP データ基盤 施策の成果が一度ここに集まる 事業の数字 受注 ・ LTV ・ 利益(事業ROIとして可視化)

個別の施策の成果を一度データ基盤に集め、そこから事業の数字へ。マーケと事業が一本の線でつながります。

これができるのには、理由があります。私たちは、データを分析して扱うことを強みにしています。そしてもう1つ、社内にDX・業務改善を専門にする部隊があります。マーケのデータと、業務・事業のデータをつなぐ土台を、自分たちで作れるのです。

だから私たちは、「マーケROI」ではなく「事業ROI」で会話ができます。「この広告は問い合わせが多いです」で終わらせず、「この広告の問い合わせは、受注率が高く、利益に一番効いています」まで、数字で示すことを目指します。

そしてもう1つ。これらの数字の見方や仕組みを、私たちが抱え込んだままにはしません。御社の中の人が、自分たちで事業ROIを見て判断できる状態を一緒に作っていきます。私たちがいなくなっても、御社の中に「事業の数字で判断できる文化」が残ることが、本当のゴールです。

関連: なぜ単発施策では成果が続かないのか


よくある質問

うちは受注やLTVのデータをきちんと持っていません。それでも事業ROIは見られますか?

最初から完璧なデータがなくても始められます。たとえば「問い合わせ後、何件が受注になったか」を手元で記録するだけでも、入口の数字だけで判断していた状態からは大きく前進します。まずは、今ある情報のうち、マーケの数字と受注の数字をどこかでひもづけられないかを探すところから始めます。足りない部分は、つなぐ仕組みを少しずつ整えていきます。

CPAやCVを追うのは、もう意味がないということですか?

いいえ、意味はあります。CPAもCVも、改善のための大切な数字です。お伝えしたいのは、「それだけで投資の最終判断をしない」ということです。CPAやCVは「うまく集められているか」を見る数字、事業ROIは「それが事業の利益になったか」を見る数字です。両方を、役割を分けて使うのが正しい見方です。

事業ROIで見るには、高価なツールやシステムが必要ですか?

必ずしも必要ありません。大がかりなシステムを入れる前に、まず「どのデータとどのデータをつなげば、利益まで追えるか」を整理することが先です。整理ができれば、今あるツールの組み合わせで見えるようになることも少なくありません。ツールの導入は、必要だと分かってからで遅くありません。

中小規模の事業でも、事業ROIで見る意味はありますか?

むしろ、予算が限られている事業ほど意味があります。使える広告費が少ないからこそ、「本当に利益を生んでいる投資」に集中する必要があるからです。入口の数字だけで判断していると、見栄えは良いが儲かっていない施策にお金を使い続けてしまいます。事業ROIで見ると、限られた予算をどこに寄せるべきかが、はっきりします。


まずは「どこまで数字がつながっているか」を見てみませんか

「うちは、入口の数字で判断を止めていたかもしれない」と感じたら、それがスタートです。

御社のマーケの数字と事業の数字が、今どこまでつながっているか。受注やLTVまで一本の線で追える状態か。まずはそこを、一緒に確認します。

新しいツールやシステムを売り込むことはしません。今ある情報をつなぐだけで、見える景色が変わることもよくあります。

無理な営業はいたしません。まず30分、現状を可能な範囲でお聞かせください。

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執筆: 牧野 悠(株式会社AsetZ 執行役員 / マーケティングDX事業責任者)

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